ついにこの日がこんなに早くやってくるとは思いもしませんでした。
頭脳ゲームのチェスはだいぶ昔にコンピュータがトッププレイヤーを超えてしまいました。
将棋も実質、数年前からトッププレイヤーを超えています。
囲碁は手の可能性が多く(チェス:10の123乗、将棋:10の220乗、囲碁:10の360乗)まだまだトッププレイヤーを超えるのはだいぶ先だろうと言われていました。
現に一年前くらいまで、コンピュータ囲碁はまだまだプロ棋士を脅かすほどのレベルはなく、プロ棋士と3~4子差でした。
コンピュータにとって囲碁は頭脳ゲームの中で最後の砦と呼ばれていました。
ところが、今年の1月にグーグルの囲碁ソフト『アルファ碁』がヨーロッパのプロ棋士に5戦全勝のニュースが飛び込んできました。
そのことは以前のブログにも書きました。
ヨーロッパプロ棋士といってもアマチュアトップレベル程度だと多くの方がその勝利をあまり評価していませんでした。
現にその時の棋譜を見る限り、アルファ碁はまだそれほど強くなく、セドル九段に勝つにはまだ差があるとの意見が多くありました。
ところが2016年3月9日の今日、人工知能の分野や囲碁関係者など全世界が注目していた、李世ドル九段(イ・セドル)vs AlphaGo(アルファ碁)の5番勝負の第1局はアルファ碁が勝利し、歴史的快挙をおさめました。
多くの人の予想を裏切った結果です。
李世ドル九段(イ・セドル)は、世界的超一流囲碁棋士です。
そのセドル九段に勝ったアルファ碁は超一流棋士のレベルを超えている可能性があるということです。
ちょっとオーバーかも知れませんが
僕にとって今日の出来事は、今まで月までしか行くことができなかった技術がいきなり金星まで行けるようになった感覚があります。
こんなにこの短期間の間でこんなものが出てくるとは、予想もしませんでした。
囲碁愛好家としても、コンピュータがまだまだ人間を超えられないことを誇りに思っていたところもあったので、ショックだったことは確かで。
でも新しい世界の始まりにも思えました。
さて今日の対局は、いろいろと検討の余地があると思います。
イ・セドル九段は、形勢良しと思って楽観していたようなところがあったように思えます。
まず今日の対局の棋譜を載せます。
黒 李世ドル九段(イ・セドル)vs 白 AlphaGo(アルファ碁)
棋譜再生
棋譜再生(リンク先で初手から終局まで見れます)
序盤からイ・セドル九段とアルファ碁の対局を自分なりに思うことを書いていきたいと思います。
黒7手目は、あまりない手でセドル九段がアルファ碁を試しているようにも見えます。
そして白10手目からのツケ引き定石
こういう局面ではツケ引きは良くないと教わったものですが、アルファ碁はためらうことなくツケ引いてきます。
僕の感覚だと、ツケるなら飛んでからツケる方がいいと思うのですが、アルファ碁はもっと違う読みがあるのだと思います。
手は進んで、白22手目のボウシの手に黒23と付けた手に
白24とノゾいてしかもぶつかって黒を分断をしてくるとは、強引に見えるのですが白力強いですね。
イ・セドル九段も真っ向から勝負に挑んで白の切りを許します。
僕なら黒27の手で白28のあるところに打ちますが、それは気合不足なんでしょうか?
こんな風に切られて封鎖されると僕は黒怖いですね。
さらに手は進んで、黒も中央切りを入れて乱戦模様。
こんな局面はどう収集していいのか、わかりません。
黒危なく見えて仕方ないです。
黒43と根拠を持ちます。
白が中央の黒石を39の左に切って取るなら、黒は上辺の3子の塊を取るので白も当然上辺の3子が大きいので逃げます。
白48は、いい手で黒は生きにいかなくてはならなくて
上辺の黒は、渡りの手と中で生きる手を見合いに生きが確定。
戦いはさらに中央へ
白58とツケこしてきます。
黒61手目で素人の僕なら普通に切りを防いだ当てを決めてシチョウに抱えてしまいます。
でもシチョウに抱えるのでは、白60の右に白石がきて右辺の白の一団が強くなるので効かされとみて、セドル九段は当てずにコスミます。
さらに手は進んで
黒77と中央の白2子を黒は制しました。
この時点では、黒のイ・セドル九段の方が優勢であるとのプロの意見。
さらに手は進んで
白83ツケにさら白84・白86とツケ切りとあまり見ない形
この変化は以下のように進んで、どう見ても黒が面白そうな形勢に。
プロ棋士のみなさんの意見もこの局面ではだいぶ黒が良くなったとのこと。
おそらくこの時点では、セドル九段は形勢良しと見ていたんじゃないでしょうか?
ところがこの後アルファ碁が強烈な打ち込みをしてきます。
白102手目の打ち込みです。
勝負手?なのかアルファ碁にとっては予定通りの手なのか?
最初打ち込みの時点でのプロ棋士の意見は、白は持ち込みになって良くないでしょうとの意見でした。
ところがよくよく読んでみると、なかなか難しいようでこの手の後イ・セドル九段が長考します。
そしてその後、打ち手が乱れ始めます。
イ・セドル九段は局後にこんなコメントをよせています。
『アルファ碁の決定的な第102手 「勝負手のようで…だが全く考えられない手」』
やはりこの手でセドル九段は動揺したようです。
白106と出て黒に押さえさせてから白108のすべりがプロのない感覚らしく、どうやら白粘りの筋がある様子。
セドル九段も黒109と下がって対抗しますが白110の手に妥協せざるをえず、黒111と打ちます。
この結果、白は大きく得をしました。
解説の石田九段は白成功したと評価。
※三村智保九段の見解では、黒115と白3子を取りきった時点で白106と白104の手が持ち込みになっているので、黒がはっきり優勢になったとおっしゃっています。
白116のコスミは、白アルファ碁の勝ちました宣言にも見えます。
この時点でアルファ碁は形勢良しと見ているようです。
形勢がだんだんと怪しくなっていきます。
さらに手は進んで黒123白126のツケノビの手に解説の石田芳夫九段大きく疑問、黒は127は白78の下に押さえる手でしょうとこと。
※これは三村九段も同意見で、敗着では?とのこと。
局後の検討でセドル九段は123の手ではつけずに、78の下にコスミつけて白が伸びたら、下ハネツギの図を示していたのでそちらの方が良かったと思われているみたいです。
石田九段の指摘どおり手は進んで、左辺下にいくつか白地ができて手抜きで生きている状態で、右上隅に手をまわられて黒はさらに損を重ねます。
どうやらもうこの時点では黒の形勢は危ないようで白勝ちの形勢のような感じです。
その後ヨセてみましたが、盤面いい勝負で地合いで足らずイ・セドル九段の投了となりました。
この対局を見た僕の感想ですが、アルファ碁はよく手が読めていて、大局観や形勢判断もしっかりしているように感じてなかなか手ごわい相手に感じました。
まだあと4局残っていますから、イ・セドル九段にはぜひ勝ち越してもらいたいのですが、初戦早々アルファ碁が勝つとは驚きです。
この5番勝負にアルファ碁が大きく勝ち越せば、人類を超えたと言っていいと思います。
※関連
【李世ドル九段(イ・セドル)vs AlphaGo(アルファ碁)】
第2局
第3局
第4局
第5局